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TFT用気相トレーサとしてのアルコールの評価
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Thermochem社では、ニュージーランド等で用いられているイソプロパノールが、TFT用の気相トレーサとして使用できるかを評価致しました。アルコールとその他の10種類以上のTFT用トレーサを分析した結果から評価した結果、現時点では、信頼性の面から、気相トレーサとしてはSF6、液相トレーサとしては新しく開発したThermoTraceの性能を推奨しております。アルコールやベンゾアート系トレーサ(従来、Thermochem社が使用していた液体トレーサ)に対するこれらのトレーサの利点を次に列挙しました。
気体トレーサ
- SF6は独立型の気相トレーサで、液体流量の測定と補正が不要である。
- SF6は、蒸気割合が非常に小さいLPフラッシュ・システム内の蒸気流量の測定で使うことができる。
- SF6は、拡散性に優れるため、たった5メートル程度の混合距離のパイプラインで使うことができる。
- アルコールは、専用の液相トレーサを使った液体流量の同時測定、および気体トレーサと液体トレーサの両方のための液相分析が必要になる。
- アルコールによる気相測定は、蒸気割合が小さい場合に大きな誤差を生じる。一般的な20%のフラッシングでさえ、最高30%のアルコール・トレーサが液相に溶解してしまう。
- アルコールは、地熱流体内のホウ素(H3BO3)やシリカ(H4SiO4)と反応する。このため、フィールド・テストに観察されるように、蒸気流量の測定結果が大きくなり過ぎる。
- アルコールは、気体トレーサを比べると、長い混合距離と大きな撹拌が必要になる。
- 100回分の坑井試験の薬剤費用は、アルコールと比較して、SF6は1/8以下で済む。
液体トレーサ
- ThermoTraceは、地熱塩水中に0.01〜0.1 ppmしかなくても正確な測定ができる。
- ベンゾアートは、正確な測定のために、地熱塩水中に10〜100 ppm必要になる。
- ベンゾアートは一般に、30%溶液で500 g/minもの高い注入流量が必要になる。
- ThermoTraceは一般に、1%溶液、20 g/minで注入できる。
- ベンゾアートは、費用と時間がかかるHPLC測定が必要になる。
- ThermoTraceは、安価な専用アナライザを使って現場で測定ができる。
- ThermoTraceの1回の試験にかかる費用は、ベンゾアートの半分以下である。
アルコールとその他のTFT用トレーサの検討結果は、Thermochem社によりGeothermicsに掲載されました。この論文「地熱生産技術に関するトレーサ流量試験の最前線」(”Developments
in Tracer Flow Testing for Geothermal Production Engineering” by Hirtz et
al., 2001)から、「アルコール-TFT」の節を次に抜粋して翻訳しましたのでご参照いただければ幸いです。
「アルコールは、TFT用の代替トレーサとして提案され(Lovelock, 1997およびLovelock
and Stowell, 2000)、貯留層トレーサとして評価中である(Adams, 1995)。低度数のアルコール(C2〜C4)は、気相貯留層トレーサとして魅力的である。理由は、水溶性が高いためで、気体/液体分布が気体トレーサよりはるかに1に近付くためである。TFTトレーサとして考えると、アルコールの水溶性は好ましくない。何故なら、それを考慮しないと、大きな誤差が発生するためである。TFTプロセスの温度範囲では、イソプロパノール(IPA)の気体対液体の濃度比(分布係数)が10:1から20:1の間になる。これは、20%の蒸気割合の流体用の液相に対する最高30%の区分化に等しくなる。IPAは、蒸気流量としての塩水流量の同時測定および液相トレーサと気相トレーサのための塩水標本の分析が必要になる。塩水測定での誤差は、蒸気測定に悪影響を及ぼす。例えば、Agamata-Luは2000年に、「ニュージーランドのBroardlands-Ohaaki地熱地域(Br-20の坑井)におけるアルコール
TFT蒸気流量測定内の約25%の誤差により、塩水のアルコール測定で誤差が生じた」と報告した。
水溶性による複雑さを無視しても、アルコール TFTプロセスには幾つかの化学反応問題が残る。アルコールがホウ酸とケイ酸に反応することは良く知られているが、両方とも地熱蒸気や地熱塩水内に存在し、次の反応によってホウ酸エステルとシリコン・エステルが生成される。
アルコールとホウ酸:3ROH + B(OH)3 -> B(OR)3
+ 3H2O (2)
アルコールとケイ酸:4ROH + Si(OH)4 -> Si(OR)4
+ 4H2O (3) |
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ここで、Rは各基の炭化水素成分を示す。理論的には、これらの反応で、ホウ素またはシリカ1モル当たり3〜4モルのアルコールが消費される。アルコール
TFT用に提案されたのと同じ方法で、蒸気の流れ中にアルコール溶液を注入することによって、地熱蒸気からホウ素とシリカを取り除く方法として、このプロセスに関する米国特許が申請された(Gallup,
1998)。これらの反応は、ホウ酸とケイ酸の濃度が非常に高い場合の液相で起きるようだが、気相では恐らく起こらないと思われる。
アルコール TFTに伴う別の問題は、アルコールと安息香酸ナトリウムの液体トレーサ間の反応である。フィッシャー・エステル化反応プロセスを次に示す。
| アルコールとベンゾアート:ROH + (C6H6)COO-
+ H+ -> (C6H6)COOR +
H2O (4) |
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結果的に、アルコールとベンゾアートからエステルが生成される。この反応は酸性の条件で起こりやすくなるため、アルコールと安息香酸ナトリウム(アルカリ性)が混合している状態では、反応はほとんど起こらないと思われる。ベンゾアートではなく安息香酸を使う場合または塩水のpHが低い場合に、反応が起こる。
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Thermochemは最近、インドネシアのSalak地熱地域とカリフォルニアのCoso地熱地域で、TFT用のイソプロパノールと安息香酸ナトリウムを使ったフィールド・テストを実施した。Salakの3本の坑井でのSF6とIPAの比較試験結果を表8に示す。IPAから得られる蒸気流量はSF6より8〜16%高くなっている。これは、化学反応または不完全な気体/液体の混合と平衡により、IPAの損失が起きたことを示している。上述した反応は、地熱地域内にホウ素、シリカ、およびベンゾアートのすべてが存在するため、誤差を元になる可能性がある。IPAは注入前に安息香酸ナトリウムと混合したが、その溶液の分析結果は予測値の1%以内だった。これは、トレーサの濃縮混合液がアルカリ性の状態では、IPAとベンゾアートの反応がほとんど起きないことを示している。塩水のpHはアルカリ性寄りの中性のため、塩水内のIPAとベンゾアートのエステル化は発生しないと思われる。ただし、ホウ酸とシリコンのエステル化はまだ起こる可能性がある。
表8 SalakにおけるSF6とIPAのTFT比較試験結果(2001年1月)
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トレーサ
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注入流量1
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蒸気濃度
ppm
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塩水濃度
ppm
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蒸気割合
%
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蒸気の質量
流量、g/s
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| 1.00% SF6 |
0.495 slpm |
0.0280 |
<0.0001 |
21.1 |
19.2 |
| 37.2% IPA |
0.401 kg/min |
89.6 |
5.04 |
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22.3 |
| 1.00% SF6 |
0.498 slpm |
0.0219 |
<0.0001 |
18.9 |
24.7 |
| 54.7% IPA |
0.400 kg/min |
110.2 |
5.70 |
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26.7 |
| 1.00% SF6 |
0.498 slpm |
0.0214 |
<0.0001 |
16.4 |
25.2 |
| 53.8% IPA |
0.403 kg/min |
96.2 |
5.45 |
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28.2 |
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1 slpmは1分当たりの標準リットル(STP(0℃、1
atm)における気体)
上述の試験は、蒸気割合が20%以下の坑井で行ったが、これはLovelock(1997, 2000)が以前発表したアルコール TFTのデータより低い。TFTプロセスの初期の評価では、トレーサの混合条件対蒸気割合に関する検討を含めた(Hirtz
et al., 1993)。塩水割合が高い流体は、流れが鈍るまたは層状になる傾向があるため、長い混合距離が必要になることが証明された。Salakのアルコール
TFT試験結果は、不完全な混合と流れ内の相分布の影響を受けた可能性がある。アルコール・ベンゾアート溶液の注入で、アルコール・トレーサの平衡分布と完全な混合が各相で得られる前に、幾つかの反応が起きたと思われる。すなわち、溶液がプロセス温度まで熱せられ、純粋な液体が沸騰し、塩水に溶解した溶液がアルコールを解離し、蒸気が気相と混合し、蒸気内の過剰アルコールが塩水に再溶解したと思われる。言い方を変えれば、複数の反応が起こり、流れの形成と流れ内のトレーサの物理的注入点に従って、相間の物質移動が様々に繰り返されたはずである。もちろん、それには時間とパイプラインに距離が必要になる。反対に、SF6気体トレーサは気体として注入するため、気相内で物理的に拡散するしかない。
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IPAの結果の矛盾を調べるため、Salakの試験後にCosoでIPAの追加試験が実施された。5メートルの混合距離を有する坑井におけるSF6とIPAの比較結果を表9に示す。5メートルの距離では、IPAの蒸気流量が120%も高くなっている。これは、坑井の蒸気割合が95%にもかかわらず、混合が足りないことを示している。非平衡分布と不完全な気化は、IPAの高い塩水濃度に起因している(平衡時の分布比の10〜20に比較すると、5しかない)。
表9 5メートルの混合距離を有するCosoにおけるSF6とIPAの比較試験結果(2001年3月)
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トレーサ
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注入流量1
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蒸気濃度
ppm
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塩水濃度
ppm
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蒸気割合
%
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蒸気の質量
流量、g/s
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| 5.00% SF6 |
0.100 slpm |
0.0884 |
<0.0001 |
95.3 |
6.14 |
| 61.2% IPA |
0.215 kg/min |
164.5 |
31.5 |
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13.3 |
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SF6とIPA/ベンゾアート溶液をCosoの同じ坑井に注入した場合の試験結果を表10に示す。ただし、注入点は測定点の50メートル上流である。50メートル混合距離の結果は、IPAがある理想的な条件で気相トレーサとして振る舞うことを示している。長い混合距離と高い蒸気割合では、SF6とIPAから得られる蒸気流量がほぼ正確に一致する。両方の注入位置でのSF6の流量は1%以内である。これは、SF6の気体トレーサとしての安定性を示している。
表10 50メートの混合距離を有するCosoにおけるSF6とIPAの比較試験結果(2001年3月)
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トレーサ
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注入流量1
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蒸気濃度
ppm
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塩水濃度
ppm
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蒸気割合
%
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蒸気の質量
流量、g/s
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| 5.00% SF6 |
0.100 slpm |
0.0893 |
<0.0001 |
95.3 |
6.07 |
| 61.2% IPA |
0.220 kg/min |
369.9 |
22.0 |
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6.06 |
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Broadlands-Ohaaki地熱地域でAgamata-Lu(2000)が実施した試験でも、アルコール TFTの誤差対蒸気割合の関係に同じような傾向が見られた。この試験は、3か月前に行われたジェームズ・チューブ測定との比較だったため、検証試験と見なすことはできないが、蒸気割合が12%の坑井(Br-20とBr-25)で、数百パーセントの蒸気流量の誤差を示した。一方、蒸気割合が18%の坑井(Br-8)では5%の誤差しかなかった。アルコール
TFTの流量が高い場合は常に、アルコールが失われるかまたは混合と相分布が不完全になると思われる。ただし、後者は、注入点と測定点の距離が100メートルだった状況では起きないようだ。そのため、アルコール
TFTは、短い距離では混合の問題および高い塩水割合の長い距離では化学反応の問題が発生する可能性がある。塩水割合が高い状況では全アルコールのほとんどが塩水に溶解し、長い混合距離では反応時間が長くなるため、この条件が、ホウ酸やシリコンのエステルが生成するような液相で起きる化学反応に対して理想的になる。
TFTトレーサとしてのアルコールのもう一つの問題は分析精度である。SalakとCosoの試験からのIPA標本は、揮発性があるアルコールの損失を考慮して、気体が漏れないガラス瓶を使って25℃以下の温度で収集された。分析は、水素炎イオン化検出器(FID)を使いGC上に直接注入して行った。1回の試験当たり6つの標本を測定したが、各グループの相対標準偏差(RSD)は5〜14%の範囲だった。一方、同じ試験で実施したSF6のRSDはすべて1%以下だった。精度が悪い理由は、GCコラム上のシリンジを使ってマイクロ・リットルの微量標本を注入する直接注入法のためである。誤差がランダムに発生する多数回の繰り返し注入を行えば、もっと良い精度を得ることができるが、この方法は分析には効率的でない。アルコール
TFTに関する以前に発表された試験(Lovelock, 2000)では、法医研究所による自動ヘッドスペース気体分析器を使った。この装置は、SF6の分析で使ったGC/ECDよりはるかに高価であるが、高精度のアルコール分析には必要になる。」
参考文献
| Agamata-Lu, C.S., 2000. Chemical tracer dilution
test using isopropanol, benzoate and bromide at the Broadlands-Ohaaki
geothermal filed. Geothermal Resource Council Annual Meeting,
2000, Transactions vol. 24. |
| Gallup, D.L., 1998. Method for removing contaminants
from geothermal steam. United States Patent, No. 6,112,524.
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| Hirtz, P., Lovekin, J., 1995. Tracer dilution
technique for two-phase geothermal production-comparative
testing and operating experience. Proc., World Geothermal
Congress, Florence, Italy, 1995. |
| Hirtz, P., Lovekin, J., Copp, J., Buck, C.,
Adams, M., 1993. Enthalpy and mass flow rate measurements
for two-phase geothermal production by tracer dilution techniques.
Proc., Eighteenth Workshop on Geothermal Reservoir Engineering,
Stanford Geothermal Program, Stanford University, 1993. |
| Hirtz, P., Kunzman, R., Broaddus, M., Barbitta,
J., 2001. Developments in Tracer Flow Testing for Geothermal
Production Engineering. In Press, Geothermics, 2001. |
| Lovelock, B.G., 1997. Steam flow measurement
in two-phase pipelines using volatile organic liquid tracers.
Proc., 19th New Zealand Geothermal Workshop, Auckland, New
Zealand, 1997. |
| Lovelock, B.G., Stowell, A., 2000. Mass flow
measurement by alcohol tracer dilution. Proc., World Geothermal
Congress 2000, Kyushu-Tohoku, Japan, 2000. |
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